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「SS (二次創作小説)」
空白の二年間

Rouge -ルージュ- の誓い

 きっと2人はウワサになっているはず。どんな風に言われて、2人はどんな反応をするか ―― をSSにしました。2010年4月末頃です。

2011.11.25 UP


 未沙は「約束に遅刻しちゃう」と急く心のまま、パウダー・ルームに向かって廊下を走っていた。いつもの彼女なら有り得ない事だ。ドアのノブに手を掛けた時、薄く開いていた隙間から聞こえた声 ――

「 ええ~! “ あの早瀬少佐 ” がぁ~? 」
「 ホント、“ ええ~! ” よねぇ 」
「 あの、一条大尉とぉ~? 」
「 私もビックリよぉ 」

未沙は手に持っていた化粧ポーチを、グッと胸に抱えた。自分と一条輝がウワサされているのだ。あんなに急いでいた足が一歩も前に進まず、かと言ってドアの前から立ち去る事もできなかった。

「 仕事の後で待ち合わせて、一緒してるらしいわよ 」
「 あの2人で、一体なにするの? 」
「 映画見たり、食事したりしてるみたい 」
「 シュミ、合うのぉ? 」
「 早瀬少佐は小難しいのが好きそうだし、一条大尉は ―― アクションとか? 」
「 名画と、B級映画とかぁ? 」
「 ドキュメンタリーと、特撮物? 」
「 でもあの2人じゃあ、少なくとも ――

  「 「 恋愛物って感じは、ナイナイ 」 」

 彼女達の言う通り、2人は2度ほど映画と食事に行っていた。マクロス ・ シティの建設が進むにつれて活気づいてきた市街では、映画館等の娯楽施設も開館している。

新作などは望めない現状なので、外れの少ない過去の有名作品などが上映されていた。これらのフィルムは、マクロスに残っていた物である。

  ( どうせ、名画とB級よ! )

未沙は彼女等の “ 読み ” 通りなのが悔しいし、「趣味が合うのか?」という言葉にドキッともした。ロッカーには小さい鏡しかなかったので全身が映せるパウダー・ルームに来たが、もうこの部屋に足を踏み入れる気にはなれなかった。

「 何でも早瀬少佐が決めちゃいそう 」
「 “ これは命令です ” って? 」
「 上官じゃあ、逆らえないわよねぇ 」

  ( そんな事、アイツが構うもんですか! )


 結局ロッカー・ルームに戻ると元々薄い化粧をごく薄く整え、待ち合わせのゲートへと急ぐ。輝のいるプロメテウスと未沙のいる指令センターの、丁度中間地点に位置する軍基地のゲート。ここが最近勤務後を共にするようになった、2人の待ち合わせ場所だった。

約束の10分前に着いた未沙は周囲を見回して、まだ一条輝が来ていないのを確認しホッとした。急いで守衛所の陰に隠れ、コンパクトの鏡で髪の乱れを確認する。走って乱れたままの髪などみっともないし、自分でも落ち着かない。結べばよいのだが、寂しげだったり老けて見える様な気がして嫌だった。

そこへ聞こえた、人の声 ――

「 どうしたの? キョロキョロして 」
「 …… あのさ、あんた知ってる? あのウワサ 」
「 ウワサ? 」
「 ここでよく待ち合わせてるんだって。早瀬少佐と一条大尉が! 」
「 ああ、見たことあるわ 」
「 本当 !? じゃあ、あの2人付き合ってんだ? 」
「 どうかな? そうかも。 …… でも、意外な組み合わせよねぇ 」
「 あの “ オトコなんて興味ありまセン ” みたいな早瀬少佐が、ねぇ ~ 」
「 その少佐の方がオネツっぽいから、ビックリよ 」
「 ええっ! そおなのぉ !? 」

  ( 誰が “ オネツ ” ですって !? )

 未沙もビックリだ。そんな態度をとった覚えもないし、そんな気持ちも …… ない。第一 “ よく ” などと言われる程、ここで待ち合わせた覚えもない。噂なんて “ ない ” ばっかりの、いい加減だ。

「 早瀬少佐、“ 一条君、早く来ないかしらぁ ” って感じだった 」
「 そわそわ? 」
「 そわそわ ・ ドキドキ 」
「 ひぇ ~ ! “ あの少佐 ” の方が、隊長クンを好きなんだぁ 」
「 もう “ 一条くぅ~ん ” ってカンジ 」
「 キャ~! あの人のそんなトコ、見たことなーい! 」
「 いつもはツンって、すましちゃってるもんね 」

  ( 私、そんな風にしてないわ! 捏造ねつぞうよ! )

建物の陰で聞いていた未沙は、カッと頬に血が昇るのを感じながら反撥する。未沙には少々気が強く、プライドが高い所があった。自分の気持ちを他人に決め付けられた事も、“ くぅ~ん ” 等と見られた事も、許せない。

2人に訂正させようと飛び出す足を戸惑わせたのは「同性にまで、ツンとしているように見られているのか」と、今更ながらに少し傷付いた心。


「 隊長クンの方はどうなのよ? 」
「 彼は別に普通。でも悪い気はしないんじゃない? 」
「 年上美人に好かれればねぇ。“ 男が上がる ” って感じ? 」
「 付き合うには、“ デキル上官 ” って所がネックだけど 」
「 男って、自分より上の女は嫌がるもんね 」
「 そうそう。“女なんかに負けられるか” ってね 」
「 出世しても 依怙贔屓えこひいきされてる、って言われそう 」
「 ああ ―― 隊長クン、若いのに昇進早いよね 」

 壁に着いていた未沙の手の平が、本人も知らぬ内に握り締められる。昇進したのは、彼自身の功績だ。やはり是非とも、訂正しなければ ――

「 でもあの子、年下の可愛い子が好きそうだけど。意外ね 」
「 うん ・ うん! 前にミンメイと噂あったもんね 」
「 あれ、本当よ。だって私、2人がデートしてるとこ見たもん 」
「 へぇ~! そう言えば隊長クン、娘々にゃんにゃんによく行ってたらしいもんね 」
「 でもミンメイはカイフンでしょ? だから …… 」
「 …… 自分を好きな早瀬少佐で “ 手を打っとこう ” ってトコ? 」
「 そーゆーコト 」

「 あねさん女房なら、楽そうだもんね。色々してくれそー 」
「 そう? 少佐の方が隊長クンを尻に敷いて、命令しそうだけど 」
「 なるぅ~! 彼、大人しそうだもんね 」
「 子供っぽい顔してるけど、幾つかしら 」
「 ねえ ―― 少佐って何歳? もしかして5歳以上年上? 」
「 うっわ~。そんな年下追いかけちゃうって、ちょっと …… 」
「 …… 普通、やれないわよねぇ。年増ってか、お局ってか 」
「 でぇっもお~。あの2人じゃ “ 恋人 ” ってより “ 姉と弟 ” ってカンジィ? 」


クス クス クス ・・・


 女の子達の笑いの振動が、未沙の心を揺さぶった。逃げ出そうにも、足は全く動いてくれない。ざらついた壁にすがった手は痛いはずで、でも何も感じない。瞬きすらもできず大きく見開いた目から盛りあがった雫が、灰色のコンクリと曇り空の境界線を滲ませた。

 壊滅した地球でマクロスに救助された日に自覚して、すぐに否定した気持ち。繰り返し何度閉じ込めても、一条輝に会う度に顔を出してしまうそれが、最近では愛おしくなってきたところだった。

恋に臆病になっていた未沙が「大切にしようか?」と思い始めた矢先に傷付けられた想いは、ぱっとまた過去の傷の陰に隠れてしまった。


「 あ! ウワサをすれば、隊長クンよ 」
「 …… ねえ、聞いちゃおっか? 」
「 聞いちゃお! 聞いちゃお! 」

「 お疲れ様です 」
「 お疲れさま~、一条大尉。 ―― ここで待ち合わせ? 」
「 は? ええ、まあ 」
「 ふ~ん。誰と? 」
「 …… 別に、誰だっていいでしょう 」

 未沙は一条輝の言い難そうな声に、「噂になっているのを知っている」と直感した。彼が来た事ですくんでしまっていた背中がショックで弛緩し、これ以上もう下がりようもなかった頭が上を向く。

「 教えてくれたっていいじゃない 」
「 別に …… 知ったって面白くないですよ 」
「 フ~ン。早瀬少佐でしょ 」
「 ・・・・・・ 」

  「 どっちが誘ったの? 」 「 付き合ってんの? 」

「 違いますよ! 」
「 ウッソだぁ~。だってデートしてるじゃない 」
「 デートって …… 別にメシ喰ったりしてるだけだし 」
「 男女がプライベートに2人で出掛けるのを、デートって言うの 」

  ( デートって、そういう物なの …… )

未沙は初めて聞いた定義を霞んだ頭に流しながら、一条輝の言葉や不機嫌そうな口調に気持ちが更に沈んだ。

「 友達だって、2人で出掛けるでしょ 」
「 少佐とおトモダチ? “ あの早瀬少佐 ” とぉ? 」
「 “ あの ” ってナンですか !? “ あの ” って 」
「 男嫌いで、厳しくって、おカタイ、少佐殿 」
「 別にそんな人じゃない。フツーの人だ 」
「 君だってよく怒鳴られてたじゃない 」
「 それは …… 俺が、ちゃんと命令を聞かなかったり ――
「 かばうんだあ~? や~っぱり ――
「 だから違うって! 」

 未沙は、自分が周囲から少し距離を持たれているのを知っていた。“ 火のない所に煙はたたない ” というのは本当で、実際に未沙は「早瀬提督の娘」であり「士官学校首席」であり「青山の邸宅に住むお嬢」だった。今となっては全て過去の事だが、未だについて回る事実。そこに冷静で的確な指示と共に見られる、崩れない表情。それを時に凌駕する厳しい言動が足されれば、“ あの早瀬 ” が出来上がる。

親しいと言えるのは、仕事以外の未沙を知る元ブリッジの面々くらい。“ 友達 ” と呼べる対等な相手は、クローディアだけだ。親戚は両親とも兄弟がいなかったので、元から皆無であった。その両親も今はなく、根無し草のように希薄な自分の存在が、心細くないと言えばウソになる。
 
しかしそれと、軍務を妥協してれ合う事で関係を作るのは、別だ。そんな風で自分でもかたくなだと思う未沙を “ フツーの人 ” と言って、普通に接してくれる一条輝が嬉しかった。


「 年上の女に好かれれば、悪い気はしないわよねぇ 」
「 そんなんじゃない。 少佐は俺に、色々教えれくれてただけだ 」
「 あの人パイロットじゃないじゃない。何を教わるのよ 」
「 ん …… 書類の書き方とか、決まり事とか。そういうの俺、まだよく分んないから 」
「 ヘエ~。“ 手取り足とり ” ? 」
「 そんな言い方、止めろよ。少佐が可哀想だろ 」

  ( もう …… いいわ。一条君 )

 未沙はそっと壁から離れて、気が付かれないように駐輪場の裏伝いで基地へ向かった。彼は男女の関係を否定はしても、未沙自身は否定しなかった。未沙を援護すれば自分も攻撃されるのは目に見えているのに、冷やかし追求する彼女達に言い返してくれたではないか。

未沙は、その気持ちだけで十分だと思う。

  ( ただの友達だって、いいじゃない )

 みんな恋だ愛だと騒ぎ過ぎなのだ。未婚の若い男女がひしめく軍隊で、その手の事に関心が高いのは仕方ない。でも人間関係を画一的にとらえ過ぎていると思う。恋愛という感情抜きで、お互いを尊敬し高め合いたいという関係があったっていい。

―― 実はその関係が若い恋の始まり方なのだと、未沙は気が付かずにいた。


 先を進みながらまだ話している3人の方を時折見れば、からかい顔の女の子達と、苦い顔の一条輝が見える。一見ちょっとぼーっとした少年が意外にもハッキリと反論するのに彼女達は驚いたが、それが逆に年上として上手を取ろうと彼女らを躍起にさせたらしい。

  ( この分じゃ、部隊ではもっと言われてるわね )

 未沙も士官学校上がりだから、軍隊での男の集団がどんな風か何となく分かる。年齢やキャリア、実力により上下関係がハッキリしている男社会で、一条輝はそれらがアンバランスな存在。以前はフォッカーがいたから守られている部分もあっただろうが、もうその彼はいない。

一条輝は、自分で自身を守らなければならないのだ。

( もうちょと待ってて。今行くわ )


 未沙はたどり着いた基地の玄関で大きく息を吸って、縮込まっていた心と姿勢を正す。自分は彼より年長者で、上官なのだ。しっかりしなくてはならないし、彼を護らなければならない。

背筋を伸ばしてヒールを鳴らし一歩一歩ゲートの3人に向かって進む未沙は、もういつもの早瀬少佐で毅然としていた。

「 ごめんなさい、一条大尉。お待たせしたかしら 」
「 …… いえ。僕も今着いたトコなんで 」

「なんとかこの生意気な男をやり込めて、面白がってやろう」と意地になっていた彼女達だったが、“ あの早瀬少佐 ” の登場に「じゃあね」とあっさり離れていった。

一条輝は先程までの表情などまるで見せず、いつもと変わらぬ様子だ。未沙は彼のこの辺りを、以前は “ 鈍感さと人の意見を聞く気のなさ ” から来ると誤解していた。親しくなるにつれて「それは違うようだ」と思うようになっていたが、今日ハッキリと認識した。 “ 大らかさと言う鈍さと強さ ” “ 相手への思いやり ” からだったらしい。

「 じゃ、行きましょうか。少佐 」
「 そうね 」

 2人とも早番の今日は、一緒に軽く夕食を摂った後、バッティング ・ センターに行く約束だった。この前出掛けた時に野球の話になって、未沙が「バッティングなんて子供の頃っきり」と言ったら「じゃあ行ってみよう」となった訳である。

2人で今日の出来事などを話しながら店に向う道すがら、未沙は考えていた。


  自分と彼とは合わなく見える、らしい
年上で上官の恋人というのは彼の価値を下げる、らしい
―― 自分との噂は、彼を困らせる


 未沙は美味しそうにラーメンを啜る、まだ少年っぽい顔を見ながら思う。

  ( ふふ。ラーメンとバッティング・センターなんてデート、ないわ )

「 早瀬さん、ラーメン伸びちゃうよ? 」
「 あ ―― そうね 」
「 ハラ、空いてなかった? 」
「 あの …… 待ち合わせ、今度から違う所にしない? 」
「 どうして? 」
「 外だと …… ほら、雨の日なんか濡れるし 」
「 そう言えばそうだね 」
「 でしょ? 」
「 うん。ならドコがいい? 」

未沙は「噂を知っていても今後も自分と会ってくれる気なのだ」と、ホッとした。あんな風に女の子達にからかわれる彼を見れば、避けられても仕方がない事だと思うから。


 一条輝は汁まで飲みきって空になったどんぶりを避けて、デザートに取り掛かる。ゴマ団子だ。彼は結構な甘い物好きであるのを、最近知った。

「 お汁は塩分が高いから、飲まない方がいいわよ? 」
「 飲んだ方が “ 食いきったー ” って気がするんだよね 」
「 そんな食べ方してたら、そのうち高血圧ね 」
「 はいはい。気を付けマス 」

母といつも料理をしていた未沙には、壮年の父の健康を考えたメニューが当たり前だった。しかしまだ若い彼は美味しい物を美味しく食べたいだろう。

つい余計な口を出してしまうおせっかいな自分は、まるで ――


『 姉と弟ってカンジ? 』


頭に浮かんだわらい含みの声に、未沙は口を閉ざした。

「 早瀬少佐は ――
「 はやせ 」
「 あ、ごめん ―― 早瀬さんは、食べ方まで厳しいなぁ 」


『 おカタイ少佐殿 』

クス クス クス ・・・


「 …… ごめんなさい 」
「 え? イヤ、別にそんな謝るような事じゃ …… 」


 輝はいつになくしおらし気な早瀬未沙に驚いて、詰まった腹を伸ばすのに寄りかかっていた背もたれからガバリと身を起こした。ちょっと冗談含みのボヤきの何かが、彼女を気に病ませてしまったらしい。

  ( もしかしたら少佐、知ってる …… ? )

うつ向いている様子に「自分がどう言われているか知っているのか」と焦った輝の目に、彼女がテーブルへ置いていたハンカチが入る。

薄いピンクの布にされた刺繍ししゅうは ――

「 MISA …… 」
「 え? 」
「 …… ねえ、早瀬さん 」
「 はい 」
「 未沙って呼んで、いい? 」
「 ・・・・・・ 」
「 それならつい “ 少佐 ” って、言わなそうだし 」
「 未沙少佐 …… ふふっ。確かにないわね 」

 話を反らそうと振ったネタは成功したようで、輝は笑った彼女に胸を撫で下ろす。早瀬未沙の気持ちを聞き出す事も、上手く慰める事も、口下手な自分には無理だ。このままさっきの言葉は流して欲しいと、一気にたたみ掛けた。

「 ん。俺の事も “ 輝 ” でいいからさ? 」
「 ・・・・・・ 」
「 “ 一条君 ” って、言われ慣れてないから、その方が ――

同僚は皆 “ 輝 ”か“ 一条 ” だ。君付けしそうな年上の女性は軍隊ゆえに階級を付けるし、プライベートを共にする程の関係もない。“ 一条君 ” なんて呼ぶのは、真面目な早瀬少佐か、“ 坊や ” を可愛がる不真面目なラサール少佐くらいだ。

 ―― すっきりする …… かな? 」
「 …… あなたがその方がいいなら、そうするわ 」
「 うん。そうして下さい 」


 輝に断って席を立った未沙は、トイレで化粧を直していた。鏡に映る自分の唇に、父から誕生日と成人の祝いとしてもらった色をのせる。普段未沙が使う物より明るい艶は、未沙にとって仕事でつけるに躊躇ためらう鮮やかさだった。だからこれは、プライベートでしか使うつもりはない。

それに父の形見となったこのルージュを、未沙は大切に使いたかった。


『 未沙って呼んで、いい? 』


ピンクのふっくらした唇からこぼれる、初めての呼びかけ ――

「 輝 …… 」

声に出しただけで頬が熱く胸がドキドキするのは、多分さっき食べたニンニクのせいだ。ニンニクなんて使わないメニューを選んだつもりだが、臭いがなくても大量に入れられていたに違いない。

「 うん、もう! 入れ過ぎなのよ 」

 優等生でお嬢様の未沙は、昔から日本では「早瀬さん」と呼ばれる事がほとんどだった。未沙を未沙と言うのは、父母とライバー ―― 呼んでくれるのは、今は親友ひとりきり。

( 私、ちゃんと、“ 輝 ” って呼べるかしら …… ? )

未沙が異性に名前で呼び掛けるのも、大人になってからはライバーだけ。「普通に呼べるように、練習しなくちゃ」と乙女と生真面目が混ざった事を言う彼女が仕舞うルージュには、父が込めた願いがあった。


PINKのイメージ
愛情 女性的 幸福 献身


「 おまたせ …… 一条君 」
「 …… ん。さっ、行こう …… 未沙 」
「 ええ …… ひかる 」

 輝は未沙が席を外している間に、会計を済ませていた。彼の後に続いて店を出ながら、未沙は思う。輝がどこまで理解しているかは分からないが、未沙の不安や躊躇いの存在を確かに彼は感じとってくれていた。親友以外は気付いてくれない、未沙の心の柔らかい部分。

理由を聞き出して助言するでもなく、一緒の気持ちになって慰めてくれる訳でもない。でも ――

  ( いいの …… )

基地周辺を並んで歩く自分達は、きっと誰かに見られているだろう。また噂が広がるかもしれない。

  ( それでも、いい …… )


 隠れていた気持ちが、またそっと顔を出した。まだ色々な事に怯えているそれを、もう受け止めようと思う。未沙の気持ちにただ寄り添ってくれる輝に、自分も寄り添いたいから。

かつてたったひとつと信じた恋は、決して手の届かない彼方へと昇ってしまった。生きてゆくために ―― 生きるしかなかったから、必死ですがったその想い。もうそれは、未沙の中で既に信仰となっていた。

清らかで高貴なそれは、もう恋ではない。

  ( 私は多分、これから ―― )

―― 本当の恋を、知るだろう。未沙は自分の黒い心の片鱗を、もう何度か感じていた。


『 未沙。自分の正義の心に従え 』


 清らかでも美しくもない心を伴う、この想い。この想いに殉じる決意は、父の教えに背くことだろうか? …… 分からない。分からない事には、足を踏み出したくない。

でも ――

  ( ―― それでも、私はいい )

今まで守ってきた自分を、壊してもいい。両親に「清く正しく強くあれ」と育てられてきた心が、ボロ布のように汚れて千切れたって構わない。

―― 自身を賭けたその結果、何も得られなかったとしても!


 早瀬未沙の頭脳は優秀だったが、決して器用でも賢くもなかった。もし彼女がそうだったならば、士官候補生養成所の准尉任命式に出席しただろう。冷静で理論的と思われていたが、最後の所では感情的で情熱的だった。周囲の思う通りの彼女だったなら、フランスパンが突き出ている買い物袋を抱えてSDF-1の乗員訓練選抜センターの門をくぐったりはしない。

そんな人間だったからこそ、未沙は今ここにいる事ができたのだ。


 少し離れた先を歩いていた輝が振り返り、両手をポケットに突っこんで後ろ歩きをしながら未沙に話し掛ける。


ひと言で言い表すならば ――


「 夢中になると、他は目に入らなくなる人? 」


―― 早瀬未沙は 一途だった


「 未沙、こっちだよ 」

考え込んで道が違いかけた未沙を輝は指摘するでもなく、道を指し示した。それはただのバッティング ・ センターへの道だったが、未沙には自分の進みたい方向に導かれているように見える。

輝は「先行っちゃうぞ~?」と、再び前を向きポケットに手を入れた。「先に着いた方が、最初にやれるんだからな~ 」と言いながら、歩調を落として未沙に合わせてくれる。

「 輝、待って。一緒に行くわ! 」

未沙は父の願い通り、その道を一歩踏み出した。


おわり

あとがき

もっと軽い話にするつもりだったのに、なんだか重いぞ。でも前から書きたかった「輝への恋心を受け入れる未沙」、でした。この後も未沙は噂好きなマクロスの人達により、何度か心を痛めます。

仕事上の信念は確立しているので噂ごときで揺れないけれど、恋が絡むとグラグラになってしまう。我慢強く芯があるけれど、折れたらガラスのようにもろい。このギャップが可愛くて、愛おしいです。

口紅
ほか士官候補生養成所や乗員選抜センターのエピソードも、小説「白い追憶」より。未沙が誕生と成人の祝いに父から贈られた物で、父の形見 という事にしました。

ラブリー ロード
バッティング・センターへの道が、CD「遥かなる想い」に出る例のアレ?

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 Comment 

11/26 16:10 拍手コメG様 

記事内容別に分けてレスさせて頂きますね。

 「Movement」は買い、ですね。あのイラストを見ただけで、2人の会話や気持ち、シュチュエーションが浮かび、「ほわわわ~んe-446」となります。

 ファートを最近少し再読したのですが、割となんでもOKの私でも、ミンメイの萌え萌えと「輝好き!」は、「違うだろ」と思ってしまいます。ミンメイはあっけらかんとして図太くて、でも愛嬌があって憎めなくて。輝への気持ちなんて自分で分かっていなくて、他の好きな事にヒラヒラしているのが魅力(私のミンメイ像)なのに。きちんと読み直して、「今度はちゃんとした記事を書こう」と思っています。そうそう! TV版には、確かに制作者の思想やメッセージと言えるものがありましたよね。「ソコ出して欲しい」に、激しく同感です。ただエロカワイイや恋愛だけじゃ、大人は萌えないと思います。

 輝未沙の人間臭い部分を描くと、本当に実在してる気がして楽しいです。だから画像も、絵より実写を好んで載せています。

 このSSは傷付いて弱気になるけれど、最後には自分の心に従って「捨て身の戦いに身を投じる未沙」を描きました。芯が強く覚悟があって、潔い女性であると表現したつもりです。要らぬ私設定が色々ありますが、彼女の座右の銘は「人事を尽くして、天命を待つ」。当初輝への想いを受け入れる場面は、海風が吹く崖でした。「♪遥かなる想い」ですね。でも自然とこんな流れに。何気ない日常(文化)というのがマクロスのキーワードですし、そういった所で育った恋の方が、「恋に恋した」とか錯覚じゃない可能性が高い気がします。お気に召して頂いたようで、光栄です。

 

11/26 08:35 拍手コメm様へ 

 はじめまして。いつもお読み下さっているようで、ありがとうございます。初コメントまで頂戴し、嬉しいです!

 この後2人はバティング・センターで、飛距離と打てた本数の競争をし、フツーに送り届けました(泣)。「しっかり未沙姉さんとやんちゃ輝」「意外と男らしい輝と乙女未沙」「ケンカ友達だけど時々恋人」 ・・・ というカップルなので、現時点では完全にお友達です。早くアダルティーな2人も描きたいですね。

 マクロスを初めて見た年の倍以上になってしまった今でも、らぶらぶ・もじもじ・どきどき・きゅーんv-238した話が好きです。子供~思春期に経験した物は、その頃の風景や感覚を呼び覚ましますよね。「宿題やったの?」なんて怒りながら、潤いもなくなった指でPCを打って、輝と未沙で恋してマス( ´艸`)。

 ピンクやハート等でブログ画面を飾っていると、時々正気に返って「ええ年してナニやってんでしょ」なんて思ったりもしますが、止められない・・・。こうして一緒にヒカミサを応援して下さる方々もおられるので、調子に乗って今後もあつ~く (るしく) SS語りをさせて頂きます。m様もお身体をお労り下さいませ。では。
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