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白い薔薇によせて



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「SS (二次創作小説)」
Macross After

雨だれ

11月22日 「いい夫婦の日」 に因んだ –ちなんだ - SSです。






ポツ ポツ ポツ ・・・


 未沙は静かな朝、ほのかな雨音で目醒めた。小さく揺れるカーテンへ目を向ければ、窓を滴る -したたる- 水滴がガラスに模様を描いている。 ・・・ 輝が熱くて窓を開けた後、充分に閉めていなかったようだ。



・・・ お母さま



自分の頬をなでる未沙は、まだ醒めやらぬ夢の途中にいた。


―― それは、雨が見せた、優しい記憶


『 あめ なんて、つまらないです 』
『 雨が嫌いですか? 』
『 おそとに あそびに いけないのですもの 』
『 ふふ。未沙さんは、お外が大好きですね 』
『 きのうより たかく きのぼり するつもりだったのに・・・ 』


 父の赴任に伴われて来た、曾祖母の故郷カナダ。住人がいなくなって久しい彼女の生家は歴史ある洋館で、広い敷地には池やちょっとした大木が繁っていた。

父が手入れをさせただけで、先祖代々が暮らすために作られたそれらは、十数年ぶりの人のぬくもりにみるみると息を吹返した。


 母はしゃがんで未沙の高さまで目を落とすと、そっと手を我が子のまあるい頬に添える。


『 ・・・ お母様は雨、好きよ 』
『 おせんたくもの、おひさまに ほせないのにですか? 』

『 沙紀、未沙 』

『 おとうさま! きょうは いかれない のですか? 』
『 ああ。 ・・・ 雨、だからね 』
『 あめだと いかないんですか? 』
『 折角未沙が磨いてくれた靴が、汚れるだろう? 』
『 みさが いつでも ピカピカにして さしあげます! 』


 一緒に日本から赴任してきた人達は、とにかくホームパーティー等の家族間の交流を好んだ。また上には礼儀正しく・下には気さくな早瀬隆司と、美しく控え目な妻・愛らしい娘の一家。当然、フレンドリーな地元の人々達からもよくお誘いを受けた。


 人付き合いを大切にする父はそれに応えて、休日も知人や恩人宅を訪問したり自宅に招く事が多かった。しかし雨の日だけはよほどの相手でない限り、父は予定を断る。



knock knock knock


窓をノックする、小さな雨音 ――


『 お茶の用意が出来ましたよ 』
『 ああ、今行く 』
『 いいにお~い 』


 家族3人だけで過ごす休日は、いつも紅茶と焼き菓子の匂いと共にあった。雨つぶが奏でる調べは、温かなテーブルを彩る音楽。


『 あなた。今日は提督の ・・・ 』
『 いいんだ。分かって頂いているから 』
『 すみません。私が ――
『 今日の調子はどうだ? 』


 今思えば父は、雨になると体調を崩しがちな母のそばに居てやりたかったのだろう。沙紀はもともと丈夫な人ではなかったが、未沙を産んでからは更に寝込みがちだった。

仕事の時には居てやれなかったから、休日くらいは多少義理を欠いてでも大事にしてやりたい ――



お父さま ・・・



―― 未沙はそんな父の気持ちに、今なら気付くことができた。



バン バン バン


ドラム缶に弾かれる、中くらいの雨音 ――


 日本自冶区の最も近くで聞こえた銃声は、父を “第一次南アタリア島防衛戦” へと出撃させた。


『 お前も軍人の娘なら、それくらい分かるだろう ―― 私がいない間、家の事はよろしく頼むよ 』


 うなずく母と、振り返り・振り返りしながらタラップを上る父。ふたりの間につながれた、細い・けれども強い愛情の糸が、軍艦の中へと消えてゆく ・・・。



ド ド ド ド ・・・


地面を叩く、大きな雨音 ――


帰還船団、撃破さる!!


『 今ようやく “死” という言葉が書けました。言葉でしかないのに ・・・ なぜ、書けなかったのでしょう。出せない事を、受け取る人のいない事を前提としている手紙。一体、何が書きたいのでしょう。
墓碑銘 -ピエタフ- でしょうか 』


ドッ ドッ ドッ ドッ!


雨は、そう ・・・ 未沙を巻き込んでゆく、運命の歯車の音 ――



『 お母さんが危篤だ。すぐ病院へ行きたまえ 』


師走の賑わいから取り残された、ひとりきりの広い屋敷 …

  自分も父も愛し愛された母の、全ての一握りが入った白い箱 …

   ゆるりとした線香の煙の向こうで、手を合わせるだけの父 …!



『 あの日、パイプが理由もなしに割れてね。
・・・ 極東支部に行かねばならないのだ。元気にしているんだぞ 』


―― これは、雨が見せた、遠い過去の、悲しい記憶



「 未沙、まだ眠いの? 」
「 ・・・ ううん 」
「 夢見てる、みたいな顔してる 」
「 夢? ・・・ そうね。夢を ・・・ 見ていた、わ 」
「 ふ~ん。どんな夢? 」
「 ・・・ 輝、お腹すかない? 今日はクッキーを焼いてあげる 」
「 やったー! でも、作るの大変だろ ・・・ ? 」
「 もう焼くだけにしてあるの 」



お母さまは、雨が楽しみだったのね



 未沙はカーディガンを羽織りキッチンへ行くと、冷凍しておいたクッキーの種をオーブンに広げる。母はいつも天気予報を見ては、翌日の家事や家族の準備などを予定だてしていた。

雨降り休日の前夜、母は未沙が寝てから多分こっそりクッキーの種を作っていた事だろう。


 輝とふたりで囲むテーブルには、紅茶の湯気と焼き菓子の香り。ガスオーブンから漂う匂いと熱気を出すために、細く開けた窓から流れ込む雨音。奏でる調べは2人の間のわずかな静寂を、穏やかな音楽に変える。


―― 醒めた後にも続く、ふたりで過ごす夢のような日々


「 もう、具合よくなった? 」
「 ええ。思ったより つわり が軽くて助かったわ 」
「 ごめんな? 未沙ばっかり ・・・ 」
「 バルキリーの妊夫用ベルトを開発しないで済んで、よかったわ 」
「 あの時の、ミリアにはなあ ・・・! 」


 輝は未沙の冗談に、過去の「冗談ではなかった苦労」を思い出す。頭を掻いた彼は大きなテーブルなのに、何故か未沙の横にイスを並べていた。


「 ・・・ お腹、蹴ったりされない? 」
「 ふふ。まだ、ちょっと早いわ 」
「 早く大きくなれよ~ 」


 輝は未沙のお腹に、指でチョンチョンと触れる。前から優しかった彼だが、子供ができてからは特に、で。その “ハシより重い物は持たせない” 勢いに、未沙は「私はお嬢様かしら?」と笑ってしまう(本当にそうなのだが)。


 “文化の日記念祝典” に軍務で出たので、今日は2人とも代休だ。忙しくて天気予報を確認できなかった未沙は、休日の予定を立てるためにテレビをつけた。


『 今日は11月22日。“いい夫婦の日” です 』


 輝と未沙は、お互い顔を見合わせる。


『 この日は、夫婦がお互い感謝の心を形にする ――


「 「 ありがとう 」 」


        「 君
                 と、結婚できてよかった 」
        「 貴方


 輝は隣から未沙を抱きしめると、優しくお腹をなでる。―― これはまだ、幸せへの Prelude –前奏曲-



お父さま、お母さま



「 俺たち ・・・ 幸せだな 」


未沙は、とても 幸せです



おわり

あとがき

 「私は、貴方達のように、幸せ」と心から伝えられるのが、両親孝行かな? と。前作SS「あおぞら」より数年前の “いい夫婦の日” 、のヒカミサでした。


 未沙の回想シーンは、小説「早瀬未沙 白い追憶」より。この本、いつ読んでも可哀想過ぎてつらい。


前奏曲 第15番 変ニ長調 作品28の15

 ショパンの名曲、通称「雨だれ」。途切れなく続く伴奏の変イ音が、雨だれのように聴こえる。

 ショパンの最後の恋人ジョルジュ・サンド(女流作家)と地中海の孤島へ転地療養に行っていた時に作曲された。「ショパンがピアノを弾いている音と、雨だれが軒下からしたたり落ちる音とが微妙に調和していた」とサンドが書いていることから生まれた通称である、等の諸説がある。

♪ふたり寄り添う 傘の中~
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